📝 この記事でわかること
- 「歴史ものを描く」ことに、著作権とは別のリスクがあるって本当?
- ドイツには、どんな法律があるのか?
- 日本の人気作品が、実際に海外で対応を迫られた事例には何がある?
- 各プラットフォームは、この手のモチーフをどう扱っているのか?(比較表つき)

前回、版権イラストがなぜ「売っちゃダメ」なのかを調べた記事を書きました。
あの調査をしている途中、実はもうひとつ、自分にとって見過ごせない話に行き当たりました。
著作権とは別の話です。
大正浪漫という、昭和初期や戦前期にもつながっていく時代をモチーフにしている自分にとって、実はかなり身近な問題でした。
直接のきっかけは、以前描いた1枚でした。
基本的に描いた絵は、投稿する前にAIで事前審査を行っています(笑)。
そのとき、結構強めに「これはSNSに出すのを見送った方がいい」と言われたのが印象に残っていました。
正直、ここまで強く言われるのも珍しい(笑)。
ならば、改めて自分でも調べてみよう。そう思ったのが今回の記事を書くきっかけです。
※私は法律の専門家ではありません。以下は公開情報をもとに調べた内容の紹介であり、法的な助言ではありません。個別の判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
ドイツには、こういう法律がある

例えば、ドイツには刑法86a条という条文があります。ナチスなど、憲法違反と判断された組織の旗・記章・敬礼といった象徴を、公然と使用したり、頒布したりすることを禁じているものです。
違反した場合、3年以下の自由刑または罰金の対象となる可能性があります。
※「自由刑」はドイツ法の用語です。ドイツには日本の「懲役」(労役を伴う刑)に相当する制度がないため、日本語で紹介する際も「自由刑」と表記するのが正確です。
ただし、この条文には例外もあります。芸術・科学・研究・歴史的事実の解説など、一定の文脈での表現は規制の対象外となる場合があります。
とはいえ、その線引きはケースバイケース。「芸術だから絶対に大丈夫」と言い切れるものではなさそうです。
これ、実は自分に関係のある話でした

正直、最初は、「日本に住んでいる自分には関係ない話」……と思っていました。
でも、そうではありませんでした。
例えば「旭日旗」などです。個人的にどう考えるかはさておき、海外では歴史的・政治的な文脈を含むセンシティブなモチーフとして扱われることがあります。
特に私の場合、今後は海外プラットフォームで作品を販売していきたい。その中で、海外向けの作品を作る以上、日本国内だけの感覚で判断するのは少し危険です。
実際、海外展開の候補として調べていたPosterloungeはドイツの会社です。将来的にドイツ拠点のプラットフォームで作品を扱う可能性がある以上、ドイツの法律は決して他人事ではありません。
プラットフォーム別に、規約を表にしてみた
そこで、Etsy・Redbubbleだけでなく、自分が実際に使っている、あるいは今後使う予定のプラットフォームについても調べてみました。
拠点国と規約を横並びにしてみると、なぜプラットフォームによって対応に違いがあるのかも、少し見えてきました。
※各社の公開規約を2026年8月時点で確認した内容です。規約は変更されることがあるため、実際に出品する際には最新版をご自身でも確認してください。
こうして並べてみると、アメリカの会社が多いことにも気づきます。
ただ、同じアメリカでも、Zazzleのように特定の象徴を名指しで厳しく禁止するところと、Society6やFine Art Americaのように包括的な条項を設けているところがあります。
つまり、「アメリカだから同じ基準」とは言えません。
一方、ポーランド拠点のDisplateやドイツ拠点のPosterloungeについては、それぞれの国内法やプラットフォームの方針を意識する必要があります。
今回、各社を並べてみて分かったのは、「厳しい・緩い」という単純な話ではないということでした。
「特定のシンボルを名指しで禁止するタイプ」と、「ヘイトや差別などの包括的な規定を設け、文脈や運営側の判断に委ねるタイプ」がある。
つまり、著作権のように単純に「これは自分の作品だからOK」という話ではなく、モチーフそのものだけでなく、その文脈や見え方まで考える必要がある領域なのだと感じました。
実際に、こういう事例がありました
調べていくと、日本の作品が実際に海外で対応を迫られた事例もいくつも見つかりました。人気作品でも例外ではありませんでした。
実際に、こういう事例がありました
調べていくと、日本の作品が実際に海外で対応を迫られた事例もいくつも見つかりました。人気作品でも例外ではありませんでした。
グッズ販売中止|2021年11月・「進撃の巨人」
「マーレの腕章」グッズが、ホロコーストを連想させるとして販売中止
作中で「特定の民族を区別するために着用が義務づけられた腕章」という設定の「マーレの腕章」が、かつてユダヤ人に着用を義務づけられていた腕章を連想させるとして、製作委員会が販売中止と謝罪を発表しました。鉤十字のような直接的な象徴でなくても、歴史的な迫害を連想させるモチーフが問題になることがある。これは、かなり考えさせられる事例でした。
一部国での放送・展開に制限|昭和の人気漫画・アニメ「キン肉マン」
悪魔超人「ブロッケンマン」の衣装や技が、ナチスを連想させるとして問題になったケース
ブロッケンマンの体に描かれた鉤十字模様や、技の元ネタがナチスによる迫害を連想させるとして、一部のヨーロッパ地域では表現の変更などが行われています。日本では別の意味や文脈で受け取られている表現でも、海外では受け取られ方が大きく変わる。これも、海外展開を考えるうえで知っておくべき事例だと思いました。
審査基準の変化|2018年・ドイツのゲーム業界
ドイツのゲーム審査団体(USK)が、「芸術作品」としてナチス表現を条件付きで認める方向へ
ドイツでは長年、ゲーム内の鉤十字などが自主規制によって別の紋章に置き換えられてきました。しかし2018年、USKがゲームについても芸術作品としての表現を考慮し、史実描写としてのナチス表現を条件付きで認める方向へと運用を変化させています。ただし、これも何でも自由になったという話ではなく、あくまで作品の文脈や目的などを踏まえた判断になります。
この3つの事例に共通しているのは、日本側に「差別する意図」があったかどうかだけではありません。モチーフそのものが持つ歴史的背景と、それを見る側がどう受け取るのか。ここが大きなポイントなのだと思います。
日本では普通に見える表現でも、海外ではまったく違う意味を持つ。これが、この分野の一番厄介なところだと感じました。
この3つの事例に共通しているのは、日本側に「差別する意図」があったかどうかだけではありません。モチーフそのものが持つ歴史的背景と、それを見る側がどう受け取るのか。ここが大きなポイントなのだと思います。
日本では普通に見える表現でも、海外ではまったく違う意味を持つ。これが、この分野の一番厄介なところだと感じました。
これから、どう向き合うか

歴史ものを描いている以上、軍服や旗、敬礼のポーズといったモチーフに触れる機会は、この先も出てくると思います。
そのたびに、「これは史実の説明として描いているのか?」「それとも、特定の政治的・思想的な象徴そのものを前面に出しているのか?」を、自分自身に問い直す必要がありそうです。
そこで今回、自分ルールをひとつ決めました。
史実の説明や時代背景の解説が目的でない限り、特定の政治的組織を直接連想させる象徴は、できるだけ描かない。旗や記章、敬礼のポーズなども含めて、あくまで「大正浪漫」という時代の空気感を描くところに留める(その空気感が重要なのですが)。
むしろ私が描きたいのは、特定の政治的思想ではありません。その時代の街並み。人々の服装。当時の文化。そして、何よりも「大正浪漫」という言葉から感じる独特の空気感です。ここは、これからも大切にしていきたいと思います。
調べる前は、「なんとなく怖いから避けよう」でした。
でも、調べた後は、「なぜ避けた方がいいのか」を、自分の言葉で説明できるようになりました。
これは、これから海外展開を考えていくうえで、地味に大きな変化だと思います。
副業でイラストを販売するというと、「絵が上手ければ売れる」と思いがちです。
でも実際には、何を描くのか。どこで売るのか。誰に見てもらうのか。その国ではどう受け取られるのか。そこまで考える必要がある。
まだまだ勉強することは多そうです(笑)。

とはいえ、今回のことで一つだけはっきりしました。「知らないから怖い」と「知ったうえで判断する」は、全然違う。
海外で作品を販売していくなら、これからもこういう部分を一つずつ調べながら進んでいこうと思います。
次回予告
今回、海外展開について調べていたら、もう一つ気になることが出てきました。日本人の自分には当たり前に見える「大正浪漫」や「日本神話」の魅力が、海外の人にはどう見えているのか。次回Vol.17では、少し視点を変えて「日本文化を描く日本人イラストレーターは、海外でどう見られるのか」について調べてみようと思います。

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