熊谷直実(なおざね)、銅像になる。空想銅像シリーズ最新作ができるまで【前編・制作編】

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この記事でわかること

  • 「空想銅像シリーズ」って何? なぜ実在しない銅像を描くのか
  • なぜ最新作のモデルに熊谷直実を選んだのか
  • ラフから「金属っぽさ」が生まれるまで、実際に何をしたのか

今回は、「空想銅像シリーズ」の最新作、鎌倉時代の武将、熊谷直実(くまがい なおざね)ができるまでのお話を

前後編でお届けします。

前編は制作編。

後編は、AIを使った「ちょっとしたリアルな実験」のお話です。

実は、絵を本格的に始めた約5年前、最初にデッサンのモチーフとしてよく描いていたのが「銅像」でした。

もちろん、当時描いていたのは実在する銅像です。

それをきっかけに、

「実在しない銅像を、自分で作ってみたら面白いんじゃないか?」

と思うようになりました。

今回のテーマは、そんな「実在しない銅像」です。

どこにも建っていない、私の頭の中にしか存在しない銅像を、あたかも本物のようにイラストで描く。

それが「空想銅像シリーズ」です。

目次

空想銅像シリーズとは何か

日本のあちこちに、歴史上の人物の騎馬像がありますよね。

楠木正成だったり、武田信玄だったり、上杉謙信だったり。

私は昔から、ああいう

「威風堂々とした金属の塊」

が好きなんです。

県外に出かけると、観光地を巡るだけでなく、必ずといっていいほど「銅像巡り」もコースに入れています。

そういえば、このブログのアイキャッチも銅像なのですが……気づいていましたか?(笑)

そして、もう一つ。

私は以前から昭和史の写真集を見るのが好きでした。

戦時中の金属資源不足に伴って、多くの金属製品が回収され、歴史上の人物などの銅像が姿を消したこともあります。

昔の写真の中には、今ではもう存在しない銅像が写っていることがあります。

そういう「失われた風景」に、どこかノスタルジーを感じていました。

そこで、ふと思ったんです。

「あの時代の独特の空気感は、別に本物の銅像である必要はないんじゃないか?」

イラストの段階から、「これは銅像です」

という前提で描いてしまえば、あの重厚感を表現できるんじゃないか。

できるかどうかは分かりません。

でも、思いついた時点でもう描きたくなっていました(笑)。

「空想銅像」で、歴史をもう一度描いてみる

大正浪漫や日本神話をこれまで描いてきましたが、私の中では「空想銅像」も、その延長線上にあります。

歴史上の人物や出来事を、現代のデジタルアートとして再構築する。

実在しない銅像を、

「もし本当に存在していたら?」

という視点で描いてみる。

各地域に残る歴史上の人物や、あまり知られていない人物を取り上げていけば、地域の歴史を知ってもらうきっかけにもなるかもしれません。

もしかすると、将来的には地域おこしのような形にもつながるかも?

……なんてことまで、密かに考えています(笑)。

これまでの空想銅像

空想銅像シリーズ「伊邪那岐命・伊邪那美命」日本神話をモチーフにしたブロンズ像風イラスト
創作銅像画 伊弉諾 伊奘冉

空想銅像シリーズ「宗像三女神」日本神話をモチーフにしたブロンズ像風イラスト
創作銅像画 宗像三女神

実は、この「銅像として描く」という手法自体は今回が初めてではありません。

以前、日本神話をテーマに、

伊邪那岐命・伊邪那美命(イザナギ・イザナミ)
宗像三女神(むなかたさんじょしん)

の2作品を制作しました。

こちらも同じ「空想銅像」という発想で描いたものです。

すでにInstagram(@morirancru)でも公開しています。

今回の熊谷直実は、そのシリーズに続く最新作という位置づけです。

なぜ熊谷直実だったのか

今回のモデルに選んだのは、熊谷直実(くまがい なおざね)。

個人的にも大好きな軍記物、『平家物語』の「敦盛最期」で知られる人物です。

源氏方の武将として一ノ谷の戦いに参加し、平家の若武者・平敦盛を討ち取ったことで、その後、戦の無常を感じて出家した人物として描かれています。

ところで、ここは一つ訂正というか補足があります。

熊谷直実の銅像自体は実在します。

JR熊谷駅北口には、彫刻家・北村西望による熊谷直実像があります。1974年(昭和49年)に制作されたもので、渡辺崋山の「直実挙扇図」をもとに、一ノ谷の戦いで敦盛を扇で呼び止める場面を表現したものです。

一方、今回私が描いたのは、軍配を高々と掲げ、馬を駆る直実。

同じ熊谷直実でも、実在する銅像とはまったく違う瞬間を描いています。

だから今回の作品は、実在の熊谷直実像の再現ではなく、あくまで私の頭の中にあった「もう一つの熊谷直実像」なんです。

そこで、馬が後脚立ちになり、鞍上の直実が軍配を天に突き上げる。

この躍動感を、今回の銅像にすることにしました。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 鉛筆ラフスケッチ 馬上で軍配を掲げる構図
脳内イメージしたラフ画

参考にした資料

「空想」とはいっても、何も見ずに描いたわけではありません。

今回は主に3つの資料を横に置きながら制作しました。

①楠木正成 銅像(東京都皇居外苑)
② 源義経納大鎧(愛媛県大山祇神社伝)
③最上義光 銅像(山形県山形市)
資料 参考にしたポイント
①楠木正成の銅像 馬が静止する直前の緊張感、銅像全体の威風堂々とした空気感
②大山祇神社の源義経奉納の大鎧 赤糸縅(あかいとおどし)の色の重なり、草摺の段の切れ方、鎧の質感
③最上義光の銅像 後脚立ちの馬、武者の躍動感、「今まさに動いている」感じ

2体の銅像から「空気感」と「動き」を。1領の鎧から「素材の説得力」を。

それぞれ参考にしました。

実在しない銅像を作るには、結局、実在するものをちゃんと見るしかない。

当たり前のことなのですが、今回改めて実感しました(笑)。

制作工程:ラフから「銅像」になるまで

1.ラフ:まずは「動き」だけを取る

最初の段階では、細部はほとんど気にしません。

見るのは、

  • 馬の重心
  • 武者の姿勢
  • 手綱を引く腕の角度
  • 軍配を持つ手の位置
  • 全体のシルエット

など。とにかく、

「一瞬で動きが伝わるか」

だけを確認します。

この段階でおかしいと、あとからどれだけ描き込んでも直すのが大変です。

これは過去に何度も痛い目を見てきた教訓でもあります(笑)。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 ラフスケッチ 制作途中の武者と馬
空想銅像シリーズ 熊谷直実 デジタルラフ グレー諧調で陰影を確認

2.線画:情報量を積む

ラフのシルエットが固まったら、線画に入ります。

鎧の縅(おどし)の一本一本。

馬具の細かな装飾。

たてがみの流れ。

衣服の形。

少しずつ情報量を積み上げていきます。

ここが一番地味で、一番時間のかかる工程です。

正直、この段階が一番好きではありません(笑)。

でも、省くと絶対に分かります。

細部の情報量が不足すると、最終的に「武者のイラスト」にはなっても、「銅像」には見えなくなるからです。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 清書線画 鎧の縅と馬具を描き込んだ状態

3.「金属にする」工程

ここが今回、一番の挑戦でした。

線画までは、普通の武者絵です。

ここから、

「どうやってブロンズ像に見せるか?」

を考えます。

意識したのは、主に3つです。

手法 内容
色を絞る 緑がかった灰色~青みの強い灰色に統一し、古い銅像の緑青(ろくしょう)のニュアンスを意識
ハイライトを「点」で置く 布や肌のような柔らかいグラデーションではなく、反射する部分に強い光を置く
陰影を彫刻的にする 布の皺も、鋳造された金属を前提にした「面の切り替わり」として描く

普通の人物イラストなら、素材ごとに色を変えていきます。

肌は肌色。

衣服は衣服の色。

鎧は鎧の色。

でも銅像の場合、最終的にはほぼすべてが金属です。

だからこそ、色を増やすのではなく、

光と影で素材感を作る。

ここを意識しました。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 灰色で着色し金属の質感をつけ始めた段階

「金属っぽさ」は、色だけでは作れない

今回描いていて面白かったのが、銅像らしさは「緑色にするだけ」では出ないということでした。

むしろ重要だったのは、

どこが光を反射するのか。

そして、

どこを暗く沈ませるのか。

布のような柔らかい陰影ではなく、彫刻の面が光を拾っているように描く。

そうすると、少しずつ「金属」の感じが出てきます。

同じ構図の絵を何段階か並べて見返すと、「ここから銅像になった」という明確な境目はありません。

少しずつ、少しずつ。

石や線のようだったものが、金属の彫像に変わっていきました。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 青みがかった灰色でブロンズの質感を強めた段階

一番手こずったところ

正直に告白すると、今回は人物の表情にかなり悩みました。

馬の躍動感ももちろん難しかったのですが、最終的に一番気になったのは、馬上の直実の顔です。

人物の顔は、少しでも違和感があるとすぐに分かります。

しかも直実は鎌倉時代の人物。

当然ですが、

本人の写真なんてありません(笑)。

「実在の人物らしさ」と「自分が想像する武将像」のバランスをどう取るか。

ここは最後まで調整しました。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 上半身のクローズアップ 緑青を帯びた質感の確認

軍配の日の丸にも苦戦

もう一つ、意外と時間がかかったのが軍配です。

軍配には日の丸のモチーフを入れました。

ここが平面的すぎると、絵全体が急に安っぽく見えてしまいます。

そこで、軍配そのものの丸みと、

日の丸がその表面に沿っているような立体感

を意識しました。

小さな部分ですが、こういうところを雑にすると、全体の説得力が落ちます。

そして、ひとまず完成

こうして、

ラフ

線画

鎧・馬具などの描き込み

色の整理

金属の質感づくり

光と陰影の調整

という工程を経て、ようやく完成しました。

最初は普通の武者絵だったものが、少しずつ、

「もし本当に、この人物の銅像が存在していたら?」

と思える姿に変わっていきました。

これが、今回の「空想銅像」です。

空想銅像シリーズ 熊谷直実 完成 銀灰色のブロンズ像として仕上げた状態

「存在しない銅像」を描く面白さ

実際の熊谷直実像は存在します。

でも、今回私が描いた銅像は存在しません。

この微妙な違いが、実はこのシリーズの面白いところだと思っています。

実在する人物を題材にしながら、

「もし、こんな銅像が建っていたら?」という、自分だけの歴史風景を作れる。

それが「空想銅像」です。

そして、こうした作品を通して、

「熊谷直実って、どんな人物だったんだろう?」

と、元になった歴史に興味を持ってもらえたら、それも嬉しいですね!!

後編では、ちょっと遊んでみます(笑)

ここまで今回は、かなり真面目に制作工程を書いてきました。

でも次回は、ちょっと方向が変わります。

完成した熊谷直実の銅像を使って、

AIで「実際に存在していた銅像の記録写真」っぽくしてみました。

……はい。

ちょっとした遊びです笑

ところが、これが思った以上に「それっぽい」。

そして当然のように、ちょっとした失敗も起きました。

次回は、その制作過程と失敗談を含めて、

「存在しない銅像を、AIで存在したことにしてみた」

という話をお届けします。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

後編予告:完成した熊谷直実の銅像を、AIで「実際にあったかのような記録写真」にしてみました。その過程で起きた、ちょっとまぬけな失敗談も正直にお話しします。

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この記事を書いた人

コロナ禍をきっかけに絵を約40年ぶり?に描き始める。「心に残る1枚を」をテーマに色々なジャンルで絵を描いてます。

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